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第2話  

松山昌平が今夜すぐにでも、彼女を追い出そうとした理由が、こういうことだったのか。新しい恋人が急いでこの家に入りたがっているというわけか。

 ふん、自分がそんな男のことで、さっきまで思い悩んでいたなんて考えると、怒りのあまり自分を叩きたくなった!

 小林柔子は高飛車な態度で篠田初の前に歩み寄り、その言葉は非常にとげとげしくて傲慢だった。

 「あんたが篠田初?まだ出て行ってないの?」

 「昌平があなたを追い出したのに、いつまでぐずぐずするの?恥ずかしくないのか!」

 篠田初は彼女の挑発に耳を貸さず、地面に散らばった荷物を黙々と片付け続けていた。

 「ちょっと、聞こえないの?私が話してるのよ!」

 「ごめんね、聞こえなった」

 篠田初はようやく顔を上げ、無表情で答えた。「ただ、一匹の犬が無駄吠えしているのは聞こえたけど」

 「ちょっと、私を犬だって言うつもり?」

 「別に。答えた人がそうだってことさ」

 そう言い放ち、彼女はスーツケースを引きながら、自分の前に立ちふさがる小林柔子に向かって少し頭を傾けた。「どいてくれ!邪魔なんだけど」

 「この!」

 小林柔子は怒りで足を踏み鳴らし、その顔は紅潮し、怒りと恥じらいが入り混じっていた。

 噂によると、松山家の次男の嫁は気弱でよくいじめられる人と知られているはずじゃなかったの?どうしてこんなに口が達者なの?

 その様子を見ていた使用人が、すぐに小林柔子に取り入ろうと前に出た。

 「小林さん、怒りをおさめてください。たかが前妻のことで、体を壊しては引き合わないですよ」

 「これからは、あなたこそがこの別荘の奥様ですから、あの女なんて、へでもありません......」

 「すでに昌平様の指示でお部屋を整えておりますので、ご案内いたします!」

 小林柔子はそのお世辞で機嫌が直った、篠田初に構うのをやめ、使用人と共に豪邸の中へと入っていった。

 冷たい風の中、篠田初はまた一人きりになった。

 彼女はその壮大な建物を見上げ、胸の中に複雑な感情が渦巻いていた。

 四年の歳月をここに費やした結果が、この惨めな結末だなんて、本当に皮肉なものだった。

 「さようなら、松山家!」

 深く息を吸い込み、篠田初は一度も振り返ることなく、その場を後にした。

 その夜、彼女は都心部で1LDKのアパートを借りた。

 部屋は広くなかったが、ようやく落ち着ける場所を得たのだった。

 突然、肩の荷が下りたように軽く感じた。「松山家の若奥様」という身分の束縛がなくなり、これからはやりたいことを存分にやれた。

 篠田初はスマホを取り出し、四年前にブロックした番号に電話をかけた。

 「姉御、四年ぶりです。やっと私のことを思い出してくれたんですね!」

 海都の四大御曹司の一人、白川景雄は普段から反骨精神が強いが、今は電話の向こうでまるで興奮している子分のようだった。

 「離婚するって聞きましたよ。おめでとうございます!あんな冷血で表情もない松山昌平なんて、とっとと蹴り飛ばすべきでしたよ!」

 「知らないかもしれませんが、松山家でおとなしくしていたこの数年間、あなたの伝説は世間で広まっていましたよ!あの老いぼれた連中が、地球の裏側まで掘り返しても探し出したいって、言ってた大物があなただったと知ったら、きっと目玉が飛び出るでしょうね!」

 「どうです、今回は大きな仕事をやるか、ぼ......」

 「よせ!」

 篠田初は、その浮かれた声に頭痛がしてきて、この騒々しい男を再びブロックしたくなった。

 「爺さんに誓ったの。もう二度とあの世界と関わらないって。私を本当に親分だと思ってるなら、この秘密を守って」

 確かに、彼女の「過去」は華やかだったが、それはあくまで「過去」のことだった。今さら振り返りたくはなかった。

 「今回電話したのは、あなたに調べてもらいたいことがあって......」

 篠田初は白川景雄とやり取りを終え、電話を切った。

 同時に、一通のメッセージが届いた。送信者は松山昌平だった!

 心臓が一瞬で早鐘のように打ち始めた。

 「明日九時、役所で」

 ただの七文字だった。感情の欠片もなく、まるで一文字でも多ければ、それが賜物であるかのような感じだった。

 一度揺らぎかけた心は、再び冷静さを取り戻した。

 ふん、やっぱり、あの男に何かを期待すべきじゃなかった。

 「わかった」

 篠田初は即座に返信し、同じく感情を込めず、極めて簡潔に答えた。

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